🌱庭のつづり

ここに、いたのか。

彼岸花の、あの形が昔から好きだ。

細い花びらが反り返って、長いしべが放射状に伸びる。万華鏡をのぞいたときの、あの感じに似ている。和の美、という言葉がいちばんしっくりくる。田舎道に真っ赤なのがずらっと並んでいると、運転しながら見とれてしまう。

ただ、ずっと謎の花でもあった。

花の時期はあんなに目立つのに、ほかの季節はまったく姿を見せない。冬でもないのに、いない。そして毎年いきなり咲いて、「ああ、ここにいたのか」と思う。そのあと葉っぱが出てくるのだけれど、気がつくと葉ごと消えていて、次の花の時期まで存在を完全に消してくる。

謎が、解けた

調べたら、私はまるごと勘違いをしていた。

彼岸花(リコリス)のサイクルは、ほかの植物とだいたい逆だった。秋に花が咲く → 花が終わってから葉が出る → 葉は冬じゅう茂っている → 初夏に葉が枯れる → 夏は地下で休眠

つまり、姿がないのは。冬はむしろ、葉がいちばん元気な季節だった。私が「冬でもないのにいない」と思っていたのは完全に逆で、冬に見に行っていなかっただけである。夏に葉っぱがないのも、サボっているのではなく、暑い季節を寝て過ごすタイプというだけの話だった。

花と葉が絶対に顔を合わせないこの性質には、「葉見ず花見ず(はみずはなみず)」という言葉がちゃんとある。名前がついているということは、昔の人も同じことを思っていたのだと思う。

神社の、もらいもの

実はうちには、すでに彼岸花がいる。

近所の神社の境内に「ご自由にお取りください」と書かれた箱があって、中に球根が山盛りになっていた。1割ほど持ち帰って庭の隙間という隙間に植えた話は、前に書いた

1年目、やっと咲いたと思ったら、やたら背の低いのが出てきた。

茎がほとんど伸びずに咲いた白い彼岸花。2頭身のような姿
2頭身。

茎がほとんど伸びないまま、地面のすぐ上で咲いてしまった。2頭身くらいの寸詰まりで、思わず笑った。ちなみに当時の私は、この写真の説明文に「2頭身のような白い彼岸花」と書き残していた。よほど気に入ったらしい。

それが翌年にはちゃんとした背丈になって、赤と白が並んで咲いた。植えた場所も忘れた頃に、向こうから「ここにいます」と教えてくる。やっぱり不思議な花だ。

そのとき、葉っぱを見て思ったことがある。

これ、ニラっぽくない?

なんとなく気持ちが悪かったので、野菜を植える場所には球根を植えなかった。

その勘は、正しかった

今回あらためて調べて、あのときの「なんとなく」が正解だったと分かった。

彼岸花・リコリスには「リコリン」という毒がある。先日ニラの記事で書いたスイセンの毒と、同じものだ。というより、リコリンという名前自体がリコリス(Lycoris)から来ている。

  • いちばん毒が強いのは球根。葉にも含まれる
  • 誤って食べると30分以内に吐き気・下痢・よだれ。重いと痙攣や呼吸困難
  • 犬や猫にも危険。特に球根は命に関わることがある

そして厄介なことに、彼岸花の葉が出るのは秋から冬。ちょうどニラやあさつきと見分けがつきにくい細い葉が、野菜と同じ季節に並ぶことになる。

だから鉄則は、スイセンのときとまったく同じ。食べる植物と、観賞用の植物を同じ場所に置かない。うちは今回、リコリスの鉢を食べる鉢とは別の場所にまとめて、ラベルも挿したままにしてある。うちのコの届かない場所であることも確認済み。

モグラよけの話は、半分ほんとう

彼岸花には毒があるからモグラよけに植えられている、と聞いたことがある。これも調べてみたら、半分あたりで半分はずれだった。

あたりの部分。お墓や田んぼの畦に植えられてきたのは事実で、理由も毒。昔の土葬のお墓を動物に掘り返されないため、田畑の作物を守るため、という実用の植物だった。球根が土を抱えて畦の崩れを防ぐ効果もあったらしい。飢饉のときには水にさらして毒を抜き、非常食にもされた。不吉なイメージが定着したのも、毒のある花から子どもを遠ざけるためだった、という説がある。

はずれの部分。肝心のモグラは、完全な肉食である。土の中のミミズや虫を食べていて、そもそも球根を食べない。だからモグラが毒を嫌がって逃げる、という仕組みは成立しない。「彼岸花のあたりにはミミズが寄りつかないので、餌がない場所にモグラも来ない」という間接的な効果を挙げる説はあるけれど、直接効くわけではないようだ。

ネズミ対策としては理にかなっていて、モグラは巻き添えで名前が挙がっていた、というあたりが実際のところらしい。

それより驚いたのが、こちらの事実だった。

日本の彼岸花は、種ができない。球根が分かれることでしか増えない。つまり日本じゅうの彼岸花は、遺伝的にほとんど同じ、クローンなのだという。

種で広がることができないのに、北から南まで、お墓にも田んぼの畦にも咲いている。ということは——誰かが球根を掘って、運んで、植えたということになる。ぜんぶ、人の手で。

あの神社の箱に山盛りになっていた球根も、その何百年かの続きだったのだと思う。私も1割もらって帰って、庭に植えた。そういうことになる。

で、また買った

そんな話を知る前の、園芸店での出来事である。

カラフルな球根が売られていた。ラベルの植え時期をよく見たら、植えるのはこれからだという。

リコリス6品種のラベル。ラジアータ、スクアミゲラ、サンギネア、オーレア、スプレンゲリー、アルビフローラ

脊髄反射で、買った。

散歩の途中や運転中に見かけて目を奪われた花色があり、見たことのない花色もあった。結局ぜんぶ買った。6品種である。

品種 花色・特徴
ラジアータ いわゆる彼岸花。あの真っ赤
アルビフローラ 白。神社の球根にも入っていた色
オーレア 黄金色。ショウキズイセンとも呼ばれる
サンギネア オレンジがかった朱色
スクアミゲラ やわらかいピンク。夏に咲くタイプ
スプレンゲリー ピンクの先が青紫に染まる。これが見たことのない色

名前が、多すぎる

この花、呼び名がやたらとある。1000以上あるとも言われているらしい。

死人花、幽霊花、地獄花、捨子花。火事花、家焼き花。並べるとなかなかの迫力だが、理由を知ると納得する。毒があること、お墓に植えられてきたこと、燃え上がる炎のような姿、そして葉と花が絶対に顔を合わせないこと。不気味に見える要素が、全部そろっている。

裏を返せば、それだけ人の暮らしのすぐそばにあった花ということでもある。名前がたくさんあるのは、それだけ多くの人が名前をつけたくなったからだ。

そもそも、彼岸とは

ところで、私はこの花を何十年も「彼岸花」と呼んできたけれど、そもそも彼岸とは何なのかを考えたことがなかった。お彼岸にお墓参りに行く、あの彼岸である。

調べたら、彼岸は文字どおり「向こう岸」だった。

もとは仏教の言葉で、サンスクリット語の「パーラミター(波羅蜜多)」を漢訳した「到彼岸」から来ている。私たちがいる迷いや悩みだらけの世界が此岸(しがん)。煩悩という川を渡りきった向こう側、悟りの世界が彼岸。つまり彼岸とは、川の向こう岸のことだった。

春分の日と秋分の日を真ん中にして、前後3日ずつの計7日間。年に2回ある。なぜその日なのかというと、太陽が真西に沈むから。極楽浄土は西にあるとされていて、沈んでいく太陽の方向に手を合わせた。方角がまっすぐ揃う日を選んだわけだ。

そしてこの風習、インドにも中国にもなく、日本にしかないのだという。飛鳥時代まで遡るとも言われている。「暑さ寒さも彼岸まで」の彼岸も、もちろん同じ彼岸である。

その、川の向こう岸の名前を持つ花が、毎年きっちり同じ頃に咲く。気温が下がるのを合図にして一斉に咲く仕組みなのだそうだ。カレンダーみたいな花である。

「まんじゅしゃげ」か「まんじゅしゃか」か

いちばん有名な別名が、曼珠沙華。これ、読み方が2つある。

結論から言うとどちらも正しい。もとはサンスクリット語の mañjūṣaka で、原音に近いのは「まんじゅしゃか」のほう。それが日本語に入るときに、響きのよさから「まんじゅしゃげ」が一般化した。

そもそもは仏教の言葉で、法華経に出てくる。お釈迦さまが説法をしたとき、それを祝って天から降ってきた花のひとつが曼珠沙華だという。つまり本来は天上の花で、しかも仏典のそれは白い花。日本の赤い彼岸花とは、もともと別ものだったらしい。地獄花と天上の花、両方の名前を持っているのがこの花のややこしくて面白いところだ。

ちなみに「まんじゅしゃか」の読みが広く知られているのは、山口百恵さんの「曼珠沙華」(1978年・作詞 阿木燿子/作曲 宇崎竜童)の影響が大きいと言われている。あの曲では「マンジューシャカ」と歌われている。歌がひとつ、言葉の読み方を残していったということになる。

そして、青い彼岸花

もうひとつ、この花の名前を一気に有名にしたものがある。『鬼滅の刃』の「青い彼岸花」だ。鬼の始まりである無惨が、何百年も探し続けて見つけられなかった花。

あれは物語の中の花で、現実には存在しない。——のだけれど。

「青い彼岸花」と呼ばれることのある品種が、実在する。

リコリス・スプレンゲリー。

真っ青ではなくて、ピンクの花びらの先が青紫に染まる。それでも彼岸花の仲間で青みを持つのは珍しく、そう呼ばれている。

……先ほどの表を見返してほしい。「見たことのない花色」として買ったやつである。

知らずに、探し物を買っていた。夜しか動けない鬼には見つけられなかったそうだが、こちらは昼間の園芸店で、脊髄反射で手に取っていた。

今回は、適期です

ここ最近、あさつきニラも、調べたあとで「本当はもう少しあとが適期でした」と正直に書く記事が続いていた。

今回は違う。

リコリスの球根の植え付け適期は、休眠している6〜8月。ラベルの言うとおり、8月アタマはど真ん中である。しかも球根は乾かすとよくないので、買ったらすぐ植えるのが正解だった。脊髄反射で正しかったことが、たまにはある。

球根を植え終えたリコリスの鉢6つ。それぞれに品種ラベルが挿してある

植え方は、球根の底が深さ10cmくらいになるように。鉢なら6号に4〜5球が目安だそうだが、今回は品種を混ぜたくなかったので1鉢ずつ贅沢に植えた。ラベルは挿したまま。誰がどの色か、忘れる自信がある。

咲くのは秋。それまでは、何も出てこない。

思えばこの花は、いつもそうだ。誰にも見えないところで支度をして、こちらが完全に忘れた頃に咲く。そして気づいたときには、もう見とれている。心を射抜かれたあとなのだ。

狙撃手みたいな花だと思う。

今年は、狙われているのを知っている。知っていても、たぶん撃たれる。

植えたもの リコリス6品種(ラジアータ/アルビフローラ/オーレア/サンギネア/スクアミゲラ/スプレンゲリー)
時期 2026年8月上旬(適期は休眠期の6〜8月=ど真ん中)
植え方 球根の底が深さ10cmほど。1鉢1品種。買ったらすぐ植える(乾かさない)
メモ 球根に毒あり。食べる植物とは別の場所に置く。葉が出るのは花のあと、秋〜冬

今日も角砂糖ひとカケ🧊
見えない季節も、狙っている。