親から言われていたことがある。
「沈丁花は寿命が短いから、挿し木をしておいたほうがいい」
そのころは、ふうんと聞き流していた。

結果発表
春から夏にかけて、いろいろ挿してみた。剪定した枝を、そのまま雑に挿しただけである。丁寧に発根剤をつけたりもしていない。
| 沈丁花 | ◎ 全部ついた |
| ヒメクチナシ | ◎ 全部ついた |
| 大八重クチナシ | ◎ 全部ついた |
| キンモクセイ(フレグランスレッド) | ○ 三本中二本 |
| ビワ | × 全滅 |
| ギョリュウバイ | × 全滅 |
| ニオイバンマツリ | × 全滅 |
沈丁花とクチナシが強すぎる。



しかもポットに挿したものだけではない。庭の土に直接ぶすっと挿しておいた分も、ちゃんと根づいていた。

一方、こちらは全滅である。


ビワは、余裕だと思っていた
七つのなかで、いちばん自信があったのがビワである。
実家からもらったビワを食べて、種を庭にプッと飛ばす。それだけで生えてくるからだ。狙って植えたわけでもないのに、気づけば芽が出ている。そんな木が、挿し木くらいでつまずくわけがないと思っていた。
全滅した。
調べて納得した。ビワは挿し木では発根率が低く、ついたとしても根の張りが悪くて育たないのだという。だから普通は接ぎ木か実生で増やす。
——実生。種から生やすこと。
庭にプッと飛ばして勝手に生えていたのは、まさにその実生だった。簡単なのは実生のほうで、挿し木ではなかった。同じ木の話でも、増やし方が変われば難易度はまるで別物になる。
土でも腕でもなかった。そもそも挿し木で増やす木ではなかった、というだけの話である。
失敗しても、痛くない
三種も全滅と書くと、挿し木は難しいものに見えるかもしれない。ただ、実際にはほとんど損をしていない。
ニオイバンマツリもギョリュウバイも、時期になれば園芸店に並ぶ。値段も手が届く範囲である。全滅したところで、どうしても欲しければ買えばいい。減ったのは、剪定して出た枝と、ポットひとつぶんの土と、少しの手間だけだ。
——と書いていて、気づいた。
それを言うなら、沈丁花もクチナシも同じである。どれも園芸店で普通に売っている。うちで増やさなければ手に入らない木など、ひとつもない。
買えるのに、挿している。
理由があるとすれば、たぶんこれだ。買ってきた苗はうちにあった木の続きにはならない。同じ品種ではあっても、同じ株ではない。
だから、失敗しても痛くない遊びとして、気軽にやればいい。やってみて損はしない——というのが、七種類ぶんの結論である。
土は、ブルーベリーのついでだった
使った土のことも書いておく。
正直に言うと、選んでいない。
このとき本命でやっていたのは、実家のブルーベリー(無印)の挿し木だった。その合間に、剪定して出た枝をついでに挿していっただけなので、土もそのままブルーベリー用の鹿沼土とピートモスである。
この組み合わせはしっかり酸性になる。鹿沼土はpH4〜5、ピートモスも無調整のものは酸性だ。ブルーベリーが好きな土である。
それでも、沈丁花もクチナシも全部ついた。
あとで調べたら、それもそのはずだった。沈丁花は弱酸性、クチナシはpH5.0〜6.0の弱酸性を好む。ブルーベリーほど極端ではないにせよ、酸性寄りが嫌いな木ではなかった。
そして挿し木には栄養のない土がいい、というのは昔からよく聞く。理由を調べたら、三つあった。
- 切り口が腐る——挿し穂には根がない。有機物や肥料は雑菌のエサになり、むき出しの切り口から腐敗が始まる
- 肥料焼けを起こす——根がないので吸えないうえ、発根の時期に肥料分が多いと枯れてしまう
- 栄養は根が出てからでいい——それまでは、要らない
鹿沼土は無菌で肥料分を含まないので、その条件を満たしている。市販の培養土は肥料入りで腐葉土などの有機物も入っているから、「とりあえず培養土で」がいちばん失敗する組み合わせになる。
つまり、ブルーベリーのついでという横着が、たまたま条件を外していなかった。
⚠️ひとつ注意。この土には肥料分がない。挿し床としてはそれが利点なのだが、そのまま置いても育たない。根が回ったら、その木の好きな土へ植え替える。
ちなみに、酸性ではまずい木もある。同じ時期に挿したハイビスカスは適地がpH6.0〜6.5なので、こちらは土を替えた。その話は別の記事に書いた。
生き残ったのは、香る木ばかりだった
並べてみて気づいた。ついたものに共通点がある。
沈丁花・クチナシ・キンモクセイ。これで「三大香木」である。

狙ったわけではない。結果として、残ったのは香る木だけになった。
ただし、香れば残るというわけでもない。
全滅した三つのうち、ニオイバンマツリは名前そのものが香りでできている。漢字で書くと匂蕃茉莉。匂(香り)があり、蕃(外国)から来た、茉莉(ジャスミン)——つまり「香りのある外国のジャスミン」である。ジャスミンに似た香りは夜になるとさらに強くなる。花は咲きはじめの濃い紫から、二日ほどかけて白へ変わっていく。
沈丁花も、匂蕃茉莉も、名前が香りでできている木だ。片方は全部ついて、片方は全滅した。
だから「香る木だから強い」という話ではない。ついたのがたまたま三大香木だっただけである。そう分かったうえでも、並べてみるとやはり面白い。
ちなみに沈丁花という名前も、香りから来ている。香木の「沈香」のような匂いがして、十字の花が香辛料の「丁子」(クローブ)に似ているから、一文字ずつ取って沈丁花。
読み方が「じんちょうげ」と「ちんちょうげ」で割れているのも、これが理由だと思われる。「沈」はジンともチンとも読める。どちらも辞書に載っている正しい読みで、ユーミンの「春よ、来い」が「ちんちょうげ」と歌っているのも、まちがいではない。
親の言っていたことは、正しかった
あとで調べたら、ちゃんと理由があった。
- 沈丁花は花木のなかでも寿命が短い。おおむね25年ほど、10年ほどで突然枯れることもある
- 大きくなると移植を嫌う。動かすと弱って枯れることがある
- だから挿し木で株を更新しておくのが定石
大きくしてから動かすのではなく、小さいうちに増やしておくしかない木だった。理屈まで通っている。
ただし、枯らしたのは寿命ではなかった
正直に書いておくと、うちの沈丁花もクチナシも、いま庭にはいない。
寿命ではない。果樹を植えるために、自分で抜いた。
沈丁花は露茜とニコニコットを植えるときに。クチナシは小原紅早生を地植えするときに。庭は有限なので、何かを植えるには何かを抜くことになる。
そして抜くとき、ついでに何本か挿しておいた。
保険をかけていた相手は、枯れることではなく、自分の決断だった。
余った苗を、どこに挿すか
こうなると次の問題が出てくる。成功しすぎて、置き場がない。
知人に配った。それでも余った。
そこで、キンモクセイの挿し木「フレグランスレッド」の一本を、庭の咲かないキンモクセイの足元に植えてみた。


このフレグランスレッドには、前がある。
咲かないキンモクセイの謎を解くために買ってきた苗で、そのときは鉢の苗も、取り調べ役に挿した庭の枝も、両方枯れた。生き残ったのは、鉢上げのときについでに挿しておいた買った苗のほうの枝——ただのおまけだった。
そのおまけが、三本のうち二本ついた。そしていま、咲かない親木の足元に植わっている。
本命が消えて、おまけだけが残って、そのおまけが実験の続きを引き受けることになった。
うちのキンモクセイは何年も咲いていない。その理由はまだ分かっていない(咲かない庭。で書いたとおり、土を測るのは秋の予定である)。
親がだめでも、子はどうか。
そういう実験が、勝手に始まってしまった。
| 植えたもの | 沈丁花/ヒメクチナシ/大八重クチナシ/キンモクセイ(フレグランスレッド)/ビワ/ギョリュウバイ/ニオイバンマツリ |
| 作業 | 剪定した枝をそのまま挿し木(ポット・庭への直挿し) |
| 時期 | 2026年春〜8月 |
| メモ | 用土はブルーベリー用の鹿沼土+ピートモス(本命のブルーベリー挿し木のついで)。しっかり酸性だが沈丁花は弱酸性・クチナシはpH5.0〜6.0を好むので問題にならなかった。鹿沼土は無菌・無肥料で挿し床の条件を満たす。肥料分がないので発根したら植え替える。沈丁花・クチナシは雑に挿しても着く。ビワは挿し木では発根率が低く、ついても育ちが悪いため通常は接ぎ木か実生で増やす。⚠️香る木なら着くというわけではない(ニオイバンマツリ=匂蕃茉莉も香る木だが全滅) |
今日も角砂糖ひとカケ🧊
増やすのは簡単で、置き場がいつも足りない。