蒸し暑い日だった。
涼ませてあげようと思って、うちわを出した。
取られた。

まずベッドへ。満足そうに咥えたまま、しばらくそこでくつろいでいた。落ち着いたかと思ったら、急にスイッチが入った。ズーミー全開で部屋を逃げ回る。「かえして」と追いかけるほど加速する。こっちが汗だくになった。
涼ませてあげたいのに、暑くなるのはこっちだ。
涼ませてあげたいけど、返してくれる?
追いかけると、加速する
このとき学んだことが、ひとつある。
追いかけると、速くなる。
こっちは「返して」と言っているつもりでも、向こうには「遊んでくれている」としか聞こえていないらしい。走れば走るほど楽しくなる仕組みになっていて、取り返そうとする動きが、そのまま燃料になる。
だから正解は、たぶん追わないこと。
分かってはいる。分かってはいるのだが、うちわを咥えて目の前を横切られると、つい足が出る。
一年後、泳がせた
その翌年、同じことが起きた。
友人から届いたマンゴーの箱を開けていたら、背後で、かさり、と音がした。振り向いたら、空き箱に入っていたパンフレットを咥えている。目が合っても、返す気配はない。
このときは、追わなかった。
うちわの前科があるので、知っていた。泥棒は泳がせて、マンゴーを優先した。(そのときの話はこちら)
一年かかったが、こっちも少しは学習している。
ちなみに、綿は諦めた
ものを咥えて走る癖のほうは、その後も変わっていない。買ったばかりのひんやりベッドは、中身を部屋いちめんに解き放たれて、一晩で引退した。(真夏に、銀世界。)
快適に寝る場所より、いまここにある綿。生き方がぶれない。
この話、曲にもなりました。🎵 うちわ泥棒(Spotifyで聴く)
今日のひとかけ🧊
扇いであげようとしたら、こっちが熱くなった。