🐾犬のへそ天

マスター、いつもの。

ひょこっと、現れた。

テーブルに前足をのせて、まんまるの目でこっちを見上げる。何も言わないのに、伝わってくる。「マスター、いつもの」。常連客の貫禄だ。

テーブルに前足をのせて見上げるボストンテリア

タキシードは、こっちが勝手に言ってるわけでもなかった

白と黒の、タキシード。ボストンテリアという犬種は、生まれつき正装している。だからどこにいても、ちょっと様になる。バーのカウンターにいても、たぶん違和感がない。

で、これ完全にこちらの親バカかと思っていたら、そうでもなかったらしい。ボストンテリアには「アメリカン・ジェントルマン」という古くからの通称がある。名前のとおりアメリカのボストン生まれで、19世紀の終わりごろにできた犬種。タキシードみたいな毛色と、穏やかな気性から付いた呼び名だそうだ。

紳士。まあ、テーブルに登ってくる紳士なんだけど。

ちなみにこの正装、こちらの生活面ではまあまあの強敵でもある。黒い服を着れば白い毛がつき、白い服を着れば黒い毛がつく(→換毛期、終わらない。)。タキシードにはタキシードなりの、維持費がかかる。

2キロが、3倍になった

お迎えしたころは、2キロくらいだった。手のひらにのる重さ。それが今は、3倍。脚力もついて、ジャンプして、テーブルにも楽々登ってくる。あの、こわごわ歩いていた子が。

調べていて知ったのだけれど、ボストンテリアは体高ではなく体重でクラス分けされる珍しい犬種だそうだ。ざっくり7キロ未満・7〜9キロ・9〜11キロの3段階。同じ犬種でも倍近い差が出るので、飼い主同士で「うちのは大きめで」という会話がふつうに成立するらしい。

うちのは6キロくらいなので、いちばん軽いクラスということになる。小さめではあるけれど、カウンターに前足をかけるには、ちょうどいい身長である。

「登っちゃだめ」と言いつつ、内心ちょっと感慨深い。大きくなったなあ、と。毎朝きっかり起こしにくるあたりも、すっかり一人前だ。

「いつもの」の中身

こうして堂々と「いつもの」を要求してくる姿を見ていると、どこかでジャズでも流れてきそうな気がする。サックスの低い音、グラスの氷。そこに、タキシードの常連がひとり(一匹)。

……まあ、出てくるのはドッグフードなんだけど。

しかも、この「いつもの」は本当にいつも同じである。バーの常連なら日によって気分も変わるのだろうけど、こちらは毎日きっちり同じものが出て、それで文句も言わない。安上がりな客だ。

ただ、たまに裏メニューは出る。食いつきの悪い日に野菜を刻んで乗せてみたり、実家に行った日には焼けたカボチャとキャベツが混ざったりする。

常連には、常連の特典がある。

いちばんいい席

今日もうちのコは、我が家のいちばんいい席に、当然のように座っている。

誰も譲ったつもりはない。家族会議をした覚えもない。ただ、気づいたらそこが定位置になっていて、今さら「そこ、うちの席なんだけど」とは言い出せない空気になっている。

常連というのは、たぶんそうやって出来上がるものなのだと思う。

この話、曲にもなりました。🎵 The Usual(Spotifyで聴く)

今日も角砂糖ひとカケ🧊
いつものを、どうぞ。マスターより。